五十変の脉診がある。難経 第十難 

2014年03月29日

 
  難経 第十難

ゆっくり堂の『難経ポイント』  第十難  


  
※ 十難のポイント其の一、

十難の「一脉十変」の意味は、

「心」に於ける五つの変化と「小腸」に於ける五つの変化を合わせて十変の脉診と言う事です。


※ 十難のポイント其の二、

十変が各臓腑にありますので五十変の脉診がある事になりますね。


※ 十難のポイント其の三、

心病脉に於ける一脉十変の表(nk101)を作りました。

五十変の脉診がある。難経 第十難 


ゆっくり堂、初学者用、経絡鍼灸教科書、
『難経』にも掲載があります。合わせてご覧ください。
http://you-sinkyu.ddo.jp/an1.html


難経 第十難 原文

(『難経』原本は底本:『難経』江戸・多紀元胤著、『黄帝八十一難経疏証』(国立国会図書館所蔵139函65号)オリエント出版、難経古注集成5(1982年)に影印)を参考にしています。

十難曰.
一脉爲十變者.何謂也.
然.
五邪剛柔相逢之意也.
假令
心脉急甚者.肝邪干心也.
心脉微急者.膽邪干小腸也.
心脉大甚者.心邪自干心也.
心脉微大者.小腸邪自干小腸也.
心脉緩甚者.脾邪干心也.
心脉微大者.胃邪干小腸也.
心脉?甚者.肺邪干心也.
心脉微?(ショク)者.大腸邪干小腸也.
心脉沈甚者.腎邪干心也.
心脉微沈者.膀胱邪干小腸也.
五藏各有剛柔邪.故令一輒變爲十也.

十難の訓読

(井上恵理先生の解説:経絡鍼療(422号)と本間祥白先生の解説、福島弘道先生の解説を参考にして、
 山口一誠の考察文にて構成しました。)

十難に曰く。
一脉十変をなすとは、何の謂(いい)そや。
然(しか)るなり。
五邪剛柔相い逢うの意なり。
仮令(かれい)
心の脉急甚は、肝の邪が心を干(おか)すなり。
心の脉微急は、胆の邪が小腸を干すなり。
心の脉大甚は、心の邪自から心を干すなり。
心の脉微大は、小腸の邪自が小腸を干すなり。
心の脉緩甚は、脾の邪が心を干すなり。
心の脉微大(緩)は、胃の邪が小腸を干すなり。
心の脉?(しょく)甚は、肺の邪が心を干すなり。
心の脉微?は、大腸の邪が小腸を干すなり。
心の脉沈甚は、腎の邪が心を干すなり。
心の脉微沈は、膀胱の邪が小腸を干すなり。
五臓に各々剛柔の邪あり。
故(ゆえ)に一脉をして輒(すなわ)ち変じて十をなさしむるなり。

 詳しくは各先生の文献を参照されたし。
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 十難の解説

(井上恵理先生の解釈:経絡鍼療(422号)と本間祥白先生の解釈、福島弘道先生の解釈を参考にして、
 山口一誠の考察文にて構成しました。)

十難の解説をします。

六部定位診において、左右の寸・関・尺の脉部のうち、
五臓の部の一脉が十種類の変化をする。その理由を説明しなさい。

お答えします。

五邪が一脉の陰陽に入り「陰脉に剛甚」と「陽脉に柔微」それぞれを現わす意味です。

例えば、
左手寸口沈めて陰経「心脉」が弦にして甚だしい脉状は肝邪が心を冒したもの。
左手寸口浮かして陽経「小腸脉」が微かな弦脉を打つ時は胆の邪が小腸を冒したもの。
左手寸口沈めて陰経「心脉」が洪大にして甚だしい脉状は心邪が自らが心を冒したもの。
左手寸口浮かして陽経「小腸脉」が微かな洪大を打つ時は小腸が自らが小腸を冒したもの。
左手寸口沈めて陰経「心脉」が緩にして甚だしい脉状は脾邪が心を冒したもの。
左手寸口浮かして陽経「小腸脉」が微かな緩脉を打つ時は胃の邪が小腸を冒したもの。
左手寸口沈めて陰経「心脉」が?にして甚だしい脉状は肺邪が心を冒したもの。
左手寸口浮かして陽経「小腸脉」が微かな?脉を打つ時は大腸の邪が小腸を冒したもの。
左手寸口沈めて陰経「心脉」が沈重にして甚だしい脉状は腎邪が心を冒したもの。
左手寸口浮かして陽経「小腸脉」が微かな沈脉を打つ時は膀胱の邪が小腸を冒したもの。
五臓と五腑にそれぞれ「剛甚」と「柔微」の邪があります。
だから、一脉には陰陽の二たつの脉部があり、ここに五邪がそれぞれを冒すので十種類の脉状の邪を診るのです。

詳しくは各先生の文献を参照されたし。
 
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    十難の詳細解説

(井上恵理先生の訓読・解釈:経絡鍼療(422号)と本間祥白先生の訓読・解釈、福島弘道先生の訓読・解釈を参考にして、
 山口一誠の考察文にて構成しました。)詳しくは各先生の文献を参照されたし。

山口一誠の考察により原文・訓読・解説(解説補足)の順に文章を構成します。

〔原文〕十難曰.
〔訓読〕十難に曰く。
〔解説〕十難の解説をします。

〔原文〕一脉爲十變者.何謂也.
〔訓読〕一脉十変をなすとは、何の謂(いい)そや。
〔解説〕六部定位診において、左右の寸・関・尺の脉部のうち、
    五臓の部の一脉が十種類の変化をする。その理由を説明しなさい。

〔解説補足1〕
六部定位診(ろくぶじょういしん)における五臓の脉位です。

示指の当たる部を寸口と言い、
左手側、沈めて陰経「心」浮かして陽経「小腸」を診る。
右手側、陰経「肺」、陽経「大腸」を診る。
中指の当たる部を関上と言い、
左手側、陰経「肝」、陽経「胆」を診る。
右手側、陰経「脾」、陽経「胃」を診る。
薬指の当たる部を尺中と言い、
左手側、陰経「腎」、陽経「膀胱」を診る。

五十変の脉診がある。難経 第十難 


〔解説補足2〕
「一脉、十変」の意味は、左手寸口、「心」と「小腸」を例にして論評しています。
すなわち、「心」に於ける五つの変化と「小腸」に於ける五つの変化を合わせて十変と言う訳です。
よつて、十変が各臓腑にありますので五十変の脉診がある事になりますね。

〔原文〕然.
〔訓読〕然(しか)るなり。
〔解説〕お答えします。

〔原文〕五邪剛柔相逢之意也.
〔訓読〕五邪剛柔相い逢うの意なり。
〔解説〕五邪が一脉の陰陽に入り「陰脉に剛甚」と「陽脉に柔微」それぞれを現わす意味です。

〔解説補足1〕
 五邪は十難では心の症状を例にして論評がなされているので次のようになります。
1,正邪とは心邪(傷暑)が心脉を冒すもの。「自経:自ら病む」
2,虚邪とは肝邪(中風)が心脉を冒すもの。「相生関係の母:後ろより来るもの」
3,実邪とは脾邪(飮食勞倦)が心脉を冒すもの。「相生関係の子:前より来るもの」
4,微邪とは肺邪(傷寒)が心脉を冒すもの。「相克関係の畏経:勝つ所より来るもの」
5、賊邪とは腎邪(中湿)が心脉を冒すもの。「相克関係の剋経:勝たざる所より来るも」

〔参考図表〕「難経五十難、心病と五邪の関係図表(nk502)」を参照されたし。

〔解説補足2〕「剛柔」とは、「剛甚」と「柔微」です。
「剛甚」脉の意味は、鉄の様に硬くて強くて甚(はなは)だしい脉かな。
「柔微」脉の意味は柔らかくわずかに打つ脉かな。

  
〔原文〕假令
〔訓読〕仮令(かれい)
〔解説〕例えば、

〔解説補足1〕
次項より心と小腸の脉状についての説明がされます。
理解を深めるために、井上恵理先生の解説より、まとめたものを述べますので参考にしてください。

※1、五臓の脉状について。 
肝の脉は弦。心の脉は鈎(コウ:かぎ)。脾の脉は緩。肺の脉は?(しょく)。腎の脉は沈。

※2、心の症状を例にして五邪と脉状について。
1,「鈎にして甚だしい脉状」は心邪自らが心を冒したもの。
2,「弦にして甚だしい脉状」は肝邪が心を冒したもの。
3,「緩にして甚だしい脉状」は脾邪が心を冒したもの。
4,「?にして甚だしい脉状」は肺邪が心を冒したもの。
5、「沈にして甚だしい脉状」は腎邪が心脉を冒すもの。

※3、心と小腸の脉の特徴と比較について。
脉が「甚(はなは)だしい」・「沈んでいる脉」・「急」・「大」は心の脉状です。
脉が「微(わず)かである」・「浮いている脉」・は小腸の脉状です。

※4、小腸に陽経の五邪が入った時の脉状について。
小腸に胆の邪が入った場合は「微にして弦。」「微弦」
小腸に小腸の邪が入った場合は「微にして鈎。」「微鈎」
小腸に胃の邪が入った場合は「微にして鈎。」「微緩」
小腸に大腸の邪が入った場合は「微にして鈎。」「微?」
小腸に膀胱の邪が入った場合は「微にして鈎。」「微沈」かな。

〔解説補足1〕本間祥白先生の解釈より纏め参考文。
「急」とは、弦脉の形で、引きつつている脉状。
「甚」とは、甚(はなは)だしい脉状で病重き臓病。
「微」とは、微笑の脉状で病軽き腑病。

〔原文〕心脉急甚者.肝邪干心也.
〔訓読〕心の脉急甚は、肝の邪が心を干(おか)すなり。
〔解説〕左手寸口沈めて陰経「心脉」が弦にして甚だしい脉状は肝邪が心を冒したもの。
〔解説補足〕
「心脉急甚」の脉状の病の伝変は、虚邪である。「相生関係の母(肝邪):後ろより来るもの」

〔原文〕心脉微急者.膽邪干小腸也.
〔訓読〕心の脉微急は、胆の邪が小腸を干すなり。
〔解説〕左手寸口浮かして陽経「小腸脉」が微かな弦脉を打つ時は胆の邪が小腸を冒したもの。

〔原文〕心脉大甚者.心邪自干心也.
〔訓読〕心の脉大甚は、心の邪自から心を干すなり。
〔解説〕左手寸口沈めて陰経「心脉」が洪大にして甚だしい脉状は心邪が自らが心を冒したもの。
〔解説補足〕「心脉大甚」の脉状の病の伝変は、正邪である。「自経(心邪):自ら病む。」

〔原文〕心脉微大者.小腸邪自干小腸也.
〔訓読〕心の脉微大は、小腸の邪自が小腸を干すなり。
〔解説〕左手寸口浮かして陽経「小腸脉」が微かな洪大を打つ時は小腸が自らが小腸を冒したもの。


〔原文〕心脉緩甚者.脾邪干心也.
〔訓読〕心の脉緩甚は、脾の邪が心を干すなり。
〔解説〕左手寸口沈めて陰経「心脉」が緩にして甚だしい脉状は脾邪が心を冒したもの。
〔解説補足〕
「心脉緩甚」の脉状の病の伝変は、実邪である。「相生関係の子(脾邪):前より来るもの」

〔原文〕心脉微大者.胃邪干小腸也.
〔訓読〕心の脉微大(緩)は、胃の邪が小腸を干すなり。
〔解説〕左手寸口浮かして陽経「小腸脉」が微かな緩脉を打つ時は胃の邪が小腸を冒したもの。

〔原文〕心脉?甚者.肺邪干心也.
〔訓読〕心の脉?(しょく)甚は、肺の邪が心を干すなり。
〔解説〕左手寸口沈めて陰経「心脉」が?にして甚だしい脉状は肺邪が心を冒したもの。
〔解説補足〕
「心脉?甚」の脉状の病の伝変は、微邪である。「相克関係の畏経(肺邪):勝つ所より来るもの」

〔原文〕心脉微?者.大腸邪干小腸也.
〔訓読〕心の脉微?は、大腸の邪が小腸を干すなり。
〔解説〕左手寸口浮かして陽経「小腸脉」が微かな?脉を打つ時は大腸の邪が小腸を冒したもの。

〔原文〕心脉沈甚者.腎邪干心也.
〔訓読〕心の脉沈甚は、腎の邪が心を干すなり。
〔解説〕左手寸口沈めて陰経「心脉」が沈重にして甚だしい脉状は腎邪が心を冒したもの。
〔解説補足〕
「心脉沈甚」の脉状の病の伝変は、賊邪である。「相克関係の剋経(腎邪):勝たざる所より来るも」

〔原文〕心脉微沈者.膀胱邪干小腸也.
〔訓読〕心の脉微沈は、膀胱の邪が小腸を干すなり。
〔解説〕左手寸口浮かして陽経「小腸脉」が微かな沈脉を打つ時は膀胱の邪が小腸を冒したもの。

〔原文〕五藏各有剛柔邪.
〔訓読〕五臓に各々剛柔の邪あり。
〔解説〕五臓と五腑にそれぞれ「剛甚」と「柔微」の邪があります。

〔原文〕故令一輒變爲十也.
〔訓読〕故(ゆえ)に一脉をして輒(すなわ)ち変じて十をなさしむるなり。
〔解説〕だから、一脉には陰陽の二たつの脉部があり、
    ここに五邪がそれぞれを冒すので十種類の脉状の邪を診るのです。



今日も何とか十難をあっプです。

2014.3.29.






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